相手の名前は最強の営業ツール “気働き”コミュニケーション術⑮

役所の呼び出しが「番号」になった理由

最近では、住民票や印鑑証明の交付など簡単な手続きはコンビニでできるようになりましたが、それでも年に何度かは、あなたも役所の窓口へ出向かれることでしょう。
手続きを待つ間、手の中には番号札。やがてパネルに番号が表示されると同時に数字が読み上げられ、いすを立って窓口へ――。もちろんすべての手続きがこの通りではありませんが、全国各地このような流れのところが多いと思います。

 さて、ここで問題です。役所の窓口では、なぜ「名前」ではなく「番号」で呼び出すのでしょうか?
 もう、お分かりですね。正解は「個人情報を保護する」ためです。2003年に個人情報保護法が成立し、世の中の様相は大きく変わりました。今でこそ、個人情報の流出・漏えいは大きな社会問題となりますが、この法律ができる前の日本では、役所に出向けば誰でも他者の住民票を閲覧することができ、書き写すことが許されていたのです。
「最近の役所は名前も呼んでくれない!」とおっしゃるご高齢の方もいらっしゃいます。「プラスのふれ合い」という本来のコミュニケーションの目的からすれば、無機的で“心の込めようのない”数字ではなく、丁寧に名前で呼ぶべきところですが、役所は個人情報の宝庫。番号での呼び出しにも、こうした背景があるのです。

 ちなみに、個人情報に関連して1点、補足しておきます。
 たとえば社内で電話を受けていて、病気で休んでいる上司や同僚を指名されることがあると思います。その場合は、
「申し訳ございません。あいにく本日は休みでございます」
と、答えるようにします。
「病欠」など、それ以上の情報はNGと覚えておきましょう。個人情報の流出にあたる恐れがあるからです。病名を伝えるなどはもってのほかですよ! 同様に外出先、出張先なども「社外秘」が常識です。

営業成績を上げたかったら、まずすべきこと

名刺交換の方法や心得は、すでにご存じでしょう。ここでは改めて触れませんが、再度強調しておきたいのは、「もっと真剣に名前を覚えましょう!」ということです。「相手の名前は最強の営業ツール」と私は申し上げるのですが、その効果のほどは実際に名前を呼んでもらうとよくわかります。
たとえば、あなたが新しい部署に配属された直後の不安な状態のときに、先輩や上司が「○○さん」と名前を呼んでくれたときに感じた「温かい気持ち」は、今でも思い出せるのではないでしょうか?
反対に、営業の担当者がお客様の名前をきちんと覚えることなく2度目の説明、商談に行っても、「一度も名前で呼んでくれない」ことに相手は100%落胆するでしょう。「そんなに“真剣”でないのなら……」と、相手が感じてしまえば、3度目の商談の機会はないと考えたほうがよいですね。

クレーム対応の場面では特に名前を多用します。
「○○様、本日はありがとうございます」
「○○様、今日はたくさんいいお話を聞かせていただき、ありがとうございます。○○様」
 と、何度も相手の感情や意識に訴えるように、名前を呼ぶのです。
その結果、かなりの“ご立腹”で来られた方も、「こんなに自分の“名前”を覚えられてしまっている……」と、トーンダウンされる場合がほとんどです。
朝の挨拶でも、ただ「おはようございます」ではなくて、名前が分かれば「○○さん、おはようございます」、あるいは「部長、おはようございます」でもいいですね。
来客時、その方の名前が分かれば「○○様、本日はようこそ!」。タイミングよく声をかけるためには、常に“お客様が来られたら挨拶しよう”という意識でいることが大切です。

 これは余談になりますが、私はたとえ間違えそうでも構わず名前を呼びます。研修の現場で「浅川さん」を誤って「浅賀さん」と呼んでしまったとしましょう。
「あら失礼! ごめんなさい。“賀”じゃなくて“川”なんですね。“リバー”って覚えますわ~」というように、よい関係づくりに結び付けてしまうのです。プロの端くれとしては、「転んでもただでは起きない」というわけです。

 名前を呼ぶ効果は絶大です。たとえば研修の現場で、「では次は、○○さん!」と呼ぶのと「では、次の方」と呼ぶのでは、言葉の届き方、響き方がまったく違うのです。
 一流と呼ばれる経営者には「名前を覚える達人」と呼ばれるような人が多いことはご存じのとおり。ぜひ、あなたも“失敗を恐れず”に、進んで名前を呼んでみてください。周りの見る目がガラッと変わりますよ!