【コラム】いちごの中に母がいる

生まれ育った広島から東京へ引っ越して、今年の2月で満4年になります。
夫婦で買い物を兼ねたウォーキングが今では日課になっているのですが、11月頃から店頭でおいしそうな苺が次第に目につくようになってきました。

いちごを、昔は我が家の畑でも色々な野菜と一緒に育てていたことがあります。イチゴは果物のはずですが、葉っぱとかツルは他の野菜とよく似ています。

改めて野菜か果物かを調べてみたら、園芸学上では、木の実(木本性)は果物(果樹)、草の実(草本性)は野菜と分類するとのことで、草本性である「いちご」は野菜(果実的野菜)だということを初めて知って、少し驚きました。

そのことを調べていた時に、毎月22日がショートケーキの日ということも知りました。
カレンダーの22日の上にはいつも15日(いちご)がのっているのでショートケーキを連想させるからと、ある洋菓子店のアイデアから生まれた日だそうで、クスっとしてしまいました。

いちごも少しずつ手頃な価格となってきているのですが、買うのは子どもたちが訪ねてきてくれるときだけで、我が家にとって日頃は手が出ないぜいたくなフルーツの一つです。

いちごは、おそらく4月~5月頃に収穫していたように記憶しているのですが、東京に来てからは畑で土と交わることがなくなり、次第にそんな季節感が分かりにくくなっています。

だれからも好かれるいちごについて、「いちごの中には母がいる」というずいぶん前に何かで読んだ言葉が、私には印象深く残っています。それ以来、いちごを見るたびに、30年以上前に亡くなった母をなつかしく思い出します。

「母」という字は、「苺」だけでなく、「海」の中にも、毎日の「毎」の中にもあります。これらの漢字の中に母があるのは、確かに深い意味があるように思えてなりません。

私はどちらかと言えば、暗い雰囲気の家庭で育ちました。
小学校時代は、我が家より学校の方がずっと安心して過ごせる場所でした。だから授業が終わって下校時になると、いつもストレスを感じていました。

でもそれ以上に、内職のミシン縫いをしながら、学校での様子を聴くのを楽しみして待ってくれている母がいることが、子どもの私にとっては何よりの喜びであり、唯一の救いでした。

自分の話を喜んで聴いてもらったことで、私は母の温もりを感じ、元気が出て、家庭の暗い影を引きずらずに前向きに成長できたのだと思っています。

最近、傾聴の重要性がよく言われますが、私にはそのことがよく分かります。

次の3通りの漢字と意味の違いを確認してみたいと思います。

「聞く」は英語ではhear。受動的に認識する(聞こえる)という意味です。

「聴く」は英語ではlisten。能動的に耳を傾けて相手の想いをきくという意味があります。

「訊く」は英語ではask。自分が知りたいことを尋ねる、時に尋問するという意味になります。

自分のことを信じ、見守ってくれた母の存在があったから、私は自身の可能性を信じられるようにもなり、自信をもって前へ踏み出す勇気を育むことができたのだと思います。

相手の可能性を信じ、相手の心に寄り添いながら話を聴くことで、こちらが何を言わなくても大丈夫です。
心から聴いてもらえたという安心感に満たされさえすれば、相手は自分の力で前へ一歩踏み出す自信と勇気を奮い立たせることが次第にできるようになるのですから。

そんな私もあまり偉そうなことは言えません。我が子に対して、自分の経験から、そして子どものことを思うあまり、余分なアドバイスを言ってしまったことを反省しています。

いや、子どもだけではありません。妻に対しても同じ失敗を何度も繰り返したものです。黙って聴いているだけで本人は納得するところを、つい余分なことをこちらが言うものだから、反対に不快な思いをさせた苦い経験があります。 「聴く」ことは一見簡単そうなのですが、簡単なことではないということを今も学習中です。

講師 佐伯 邦章